Share

4-8 修也の迎え

last update Last Updated: 2025-06-25 11:34:35

「そういう事情があるなら仕方がないものね。気にしなくていいわよ。それじゃ御爺様によろしくね。後、くれぐれも私のことは……」

明日香は念を押した。どうしても猛に自分が蓮の近くにいることを知られたくなかったのだ。

『はい、大丈夫です。明日香さんのことは内緒ですよね? 蓮ちゃんにも伝えておきます。それではおやすみなさい』

「ええ、よろしく。おやすみなさい、朱莉さん」

そして電話が切れた。

「ふう……」

明日香は左手で額を押さえると溜息をついた。

「全く……ずっと海外に住んでいてくれればいいのに……」

そして思った。マンションのネームプレートは外しておいた方がよさそうだ……と。

****

 そして今現在――

――ピンポーン

朱莉の部屋のインターホンが鳴らされた。

「はい」

朱莉はインターホンに応対した。

『おはようございます。朱莉さん。迎えに来ましたよ』

修也が笑みを浮かべながらモニターの中に映っている。実は修也が車で朱莉と蓮を新宿のホテルまで連れて行くことになっているのだ。

「ありがとうございます各務さん。すぐ下に降りますね」

『いえ、そんなに焦らなくて大丈夫ですよ。待っていますから』

「すみません、10分以内にはそちらに行きますね」

モニターを切ると、朱莉は蓮に声をかけた。

「蓮ちゃん、忘れ物はない? 途中で大人のお話になるかもしれないから、飽きてしまわないように絵本の準備は出来ている?」

「うん、大丈夫。3冊持っていくから」

蓮はショルダーバッグを斜めにかけている。このバッグは蓮が大好きな電車のアニメキャラたちがプリントされていて、朱莉の手作りだった。

「蓮ちゃんは偉いわね。自分でちゃんと読みたい本を選んで準備出来るんだから」

頭を撫でると蓮は笑顔になる。

「お母さん……いつも奇麗だけど、今日はもっと奇麗だね」

今日の朱莉は半袖の水色のワンピースにクリーム色のカーディガンを羽織っている。

「ふふ、ありがとう。蓮ちゃんも今日はいつも以上に恰好いいわよ?」

蓮は白いシャツに黒い蝶ネクタイ、そしてグレーのチェックのハーフパンツに御揃いのベストを着ていた。

「へへ……ありがとう」

そして不意に蓮は真剣な顔で朱莉のスカートの裾をギュッと握りしめ、顔を上げた。

「お母さん……曾おじいちゃんて、どんな人なのかな……?」

その瞳はどこか不安に揺れている。

「蓮ちゃん? どうしたの?
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 4

     琢磨の目に映った女性は若かった。まだ20代半ばかと思われるその姿はとても美しかった。長い髪の毛を後ろで一つにまとめ、競技に参加する為だろう、紺色にピンクの縦のラインが入った上下のジャージを着ている。他の母親たちよりは地味な格好をしていたが、それでもひときわ輝いて見えた。弾けるような笑顔で子供の応援をしている姿は好感が持てた。(そうか、彼女がレンという子供の母親か……。一瞬でも朱莉さんの姿を想像してしまったが、まさかこれほど朱莉さんのことを引きずるとは自分でも思ってもいなかったな)琢磨は溜息をつきながら、荷物番の為に先ほどいたシート席へと向かった――**** その後も競技は進み、ついにお昼休みになった。「九条、午後もよろしく頼むな?」レジャーシートに座った琢磨に缶の飲み物を渡してきた。何気なく受け取った琢磨はラベルを見て驚いた。「え? こ、これってビールなんじゃないですか!?」「ちょ、ちょっと! あなた! 何してるの!? こんなところでビールなんて!」静香も驚いて夫をたしなめると二階堂は笑った。「何言ってるんだ2人とも。俺が幼稚園の運動会でビールなんか渡すはずないだろう? ノンアルコールのビールさ」「な、何だ……そうなのね……」静香は安堵の溜息をついた。「そういうことならこちらも遠慮なくいただきますよ」琢磨はプルタブに手を掛け、プシュッと蓋を開けると上を向いて喉をゴクゴクと鳴らしながらノンアルビールを飲み干し……何やら視線を感じて辺りを見た。(な、何だ?)すると静香と二階堂だけでなく、周囲に座っている他の保護者達も何故か琢磨を凝視している。(何だ? やっぱりこんなところではノンアルビールも飲んだらまずかったのか?)しかし、それにしては男性と女性では自分を見る目が違う。女性の方はうっとりした目つきで琢磨を見ているし、男性は何やら嫉妬や羨望が混ざったような目で琢磨を見ているのだ。すると二階堂がため息をついた。「はぁ~……九条。お前なあ……」「本当……少し自覚を持ったほうがいいわね……」静香も額を押さえてため息をつく。一方の栞はおにぎりを食べながらお茶を飲んでいた。「え? え? な、何なんですか? 2人とも。俺……何かしましたか?」二階堂と静香の顔を交互に見ながら琢磨は尋ねた。すると二階堂は言った。「お前……無駄に色気

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 3

     みんなの体操が終わり、運動会のプログラムは3番目に入ろうとしていた。「いいか、九条。栞のスタートは5番目だ。左側のレーンから数えて2番目の列で走るからな? しっかり動画撮影をしておけよ。俺はスタート地点から撮影するからお前はゴール地点で撮影するんだ。失敗するなよ。必ず俺の娘の雄姿を動画に収めておくように。分かったか?」紺色のブランド物ポロシャツ姿に、スウェットのパンツを履いた二階堂が琢磨に念を押している。「ハイハイ……分かりましたよ。栞ちゃんをしっかり撮影すればいいんでしょう?」「ああ、そうだ。後でその動画を編集して1本のブルーレイにまとめるつもりだからな」大真面目に言う二階堂に九条は半ば呆れた。(全く……あの先輩がここまで親馬鹿になるとは思わなかった。俺にはさっぱり理解出来ない)「おい、聞いているのか、九条。お前……手抜きで動画撮影しようものならインド行だぞ?」さらりと二階堂はとんでもないことを言ってきた。「じょ、冗談じゃないですよ! パワハラもいいとこじゃないですか!」「何、ほんの冗談だ。気にするな。ただそれくらい真剣に動画を取れよと言っておきたかっただけだ。それじゃ、しっかり頼むぞ」ハハハと笑いながら、琢磨の肩をポンポン叩く二階堂の目は……真剣だった。「分かりましたよ! 全身全霊を掛けて真剣に撮影頑張ります!」半ばやけくそで言うと、九条はビデオカメラを持って、持ち場へ急いだ――「な、なんなんだ……? この人だかりは……?」ゴール地点へやって来た琢磨は目の前の光景に目を見開いた。そこには大勢の保護者が黒山の人だかりになって、我が子の雄姿を収めようとビデオカメラやスマホ……デジカメを構えている。中には三脚を出したり、持参した脚立に登ってカメラを構えている強者までいた。「こうしちゃいられない!」のんきに構えていた琢磨は、慌てて列に向かい、何とか自分のポジションを確保すると、真剣な眼差しでビデオカメラを構えた。(先輩はああは言ってたけど、腹の底じゃ何を考えているか得体のしれない男だ。下手したら本当にインドに飛ばされてしまうかもしれないからな……本気で撮影に臨まなければ……!) その結果――やり手の琢磨は見事に栞の撮影に成功したのだった。「ふう~やれやれ……。何とか撮影成功したな……」首から下げたビデオカメラを持って、琢磨

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 2

     翌朝8時――良く晴れた5月の青い空の下、Tシャツ姿にジーンズ姿の琢磨は二階堂から託された一眼レフカメラとビデオカメラを持って、二階堂と静香の娘の栞の運動会へやってきていた。「九条さん。本日はありがとうございます。何だか夫が無理なお願いごとをしてしまったみたいで申し訳ございません」スウェットスーツにキャップを被った静香が丁寧に挨拶する。「ハハハハ。いえ、いいんですよ。どうか気になさらないで下さい……」乾いた笑いで九条は答える。すると白い体操着に紺色のハーフパンツ姿の今年4さいになったばかりの栞が琢磨の足に抱きついてきた。「ね~。たっくん。私、たくさんたくさん頑張るから、綺麗に撮影してね?」「ああ、分かったよ、任せておけって」琢磨は苦笑しながら栞に笑顔を見せた。まだ4歳ながら栞はなかなか早熟な娘で、まるでモデル並みの容姿を持つ琢磨のことをとても気に入っていた。何せ、将来はたっくんのお嫁さんになるっ! と二階堂の前で言って、冷たい視線を時々浴びせられるほどである。その度に二階堂は何処まで本気で言っているのが分からないが、「娘はお前にはやらないからな」と大真面目に言うほどであった。(全く……勘弁してほしいな)ただでさえ、琢磨は注目を浴びるのが嫌いだ。そしてまだ独身の琢磨は、やはり周囲から見れば非常に若々しくみられる。その為に、幼稚園の運動会に参加している他の母親たちから熱い視線を向けられ、さらには父親たちからは嫉妬と羨望の入り混じった目で注目を浴びていた。(こんなことなら、もっと目立たない恰好をして来ればよかった……)しかし、後悔してももう遅い。その時、園内放送が流れた。『はい、それではそろそろ、白鷺幼稚園の運動会が始まります! 園児の皆さーん、ステージの上に立つ園長先生の前に集まってくださーい!みんなの体操が始まりますよーっ!』元気な女性の声が響き渡り、ステージ上には恰幅の良い男性が紺色のジャージを着て両手を大きく振って園児たちを手招きしている。すると途端に歓声を上げて園児たちがステージに向かって駆けていく。「あ! 私……行かなくちゃっ!」栞がステージに向かって駆けていく。すると静香も立ち上がった。「すみません、九条さん。私もPTAの仕事があるので、行ってきます! 手が空いた時は荷物番お願いします!」「え? 荷物番?」(それって…

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第3章 九条琢磨 1

     ここは『ラージウェアハウス』のオフィス。5月の太陽が心地よく社長室を照らし、デスクを挟んで興奮気味の琢磨が二階堂を見下ろしている。「え? 今……何て言ったんですか?」琢磨は額に手を当てながら尋ねた。琢磨の目の前にはデスクに座り、品の良いスーツを来た二階堂が肘掛け椅子に寄りかかっている。「何だ? 聞こえなかったのか? お前、もう難聴を患ったか? その若さで?」二階堂はニヤリと笑みを浮かべる。「あいにく、難聴なんか患っていませんよ。それより社長こそ頭は大丈夫でしょうか?」琢磨は失礼を承知で言った。いや、それ位言っても構わないレベルだと思ったのだ。「俺? 頭はいたって正常だが?」「なら……おかしいでしょう? そんなことを俺に言ってくるなんて。幾ら業務命令とは言え、そんなこと聞けるわけないじゃないですか!」琢磨は二階堂のデスクをバンバン叩いた。「だから、最初に言っただろう? これは業務命令では無く……先輩後輩としてのお願いだと」「だ、だからと言って……!」「どうせ暇なんだろう?」「うっ!」「土日は特に何の予定も無く、1人マンションでネットで動画を観ているか、もしくは1人で朝からドライブに行くか……それ位しかする事が無い男のくせに?」「うぐっ!」琢磨は胸を押さえた。「本当にお前……モデル並みの容姿をしているのに恋人は愚か、休日に一緒に遊ぶ友人もいないとは寂しい男だな?」二階堂はより一層口元に笑みを浮かべる。「べ、別に友人がいないわけじゃありません! た、ただ……皆恋人がいるか、家族がいるか……そのどちらかなので……」最後の方はしりすぼみになってしまった。「ほら見ろ。結局暇だってことだろう? それに明日の予定は特に何も無いって最初にお前、言ったじゃないか?」「ですけど! そんなことを頼まれるなんて知っていたら予定を入れていましたよ! 大体何でいきなり明日のことを今日言うんですかっ?!」「そんなのは簡単だ。事前に話していたらお前、絶対に予定を入れるなりして断って来るだろう? まぁ……そういう訳だから明日はよろしく頼むよ。静香も腕を振るって弁当を作って来るって言ってたぞ? 言っておくが……うちの静香は料理がプロ並みにうまいぞ~?」「何ですか? またいつもの惚気ですか? 結婚して5年になるって言うのに……」琢磨はうんざりした表情

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第2章 京極正人 18 <終>

    「飯塚さん……大丈夫でしたか?」俯き、身体を震わせている飯塚に京極は尋ねた。「京極さん……何故、ここが……分かったんですか……?」飯塚は振り向きもせずに京極に尋ねた。「飯塚さんに渡したスマホ……実はGPS機能がついていて、それで貴女の居場所が分ったんです。すみません。監視するような真似をして申し訳ございません。ですが貴女の事が心配で……」「……」しかし、飯塚は返事をしない。「飯塚さん……? 大丈夫ですか?」すると飯塚の肩が震えていることに京極は気が付き、飯塚の正面に回り……ハッと息を飲んだ。飯塚は涙を流して震えていたのだ。「飯塚さん……」京極はためらいがちに飯塚の肩に手を置いた。「こ……怖かった……!」飯塚は京極の胸に飛び込み、肩を震わせながらボロボロと泣いた。そんな飯塚を京極は抱きしめた。「飯塚さん……帰りましょう。僕達のマンションに」僕達のマンション――その言葉によって、ずっと不安に思っていた飯塚の心に少しだけ明るい未来がさしこんだのであった。 ****「飯塚さん、どうしたんですか? 部屋に入らないんですか?」玄関の中で立ち止まったまま黙って立っている飯塚に京極は声を掛けた。「あの……京極さん……」「何ですか?」「私……ここにいていいんですか……?」「え?」京極は突然の言葉に首を傾げた。「私、いつまでここに住んでいられるのか……ずっと不安だったんです。家族にも見捨てられて、友達もいないし、お金も無くて。それに仕事は自分の力では見つけることが出来なくて……そ、それでずっと京極さんには感謝していたのに……私……可愛げの無い態度ばかりとって……!」飯塚はそこで口を閉ざした。何故なら京極が力強く抱きしめてきたからだ。 京極は飯塚を胸に埋め込まんばかりに強く抱きしめた。「可愛いですよ」「!」飯塚は自分の耳を疑った。「飯塚さんが努力家だっていうのは貴女が事件を起こす前から知っていました。語学は堪能だし、仕事も良くできる人だってことは貴女と一緒に仕事を始めるようになって良く分かりました。家事の腕前も素晴らしい。だから僕は貴女を独占したくてわざとスマホを渡しませんでした。外で誰かと繋がりを持って欲しくなかったから……。でも、それではいけないと思いスマホを渡しましたが、結局GPSなんかつけてしまったのですが。でもそのおか

  • 偽りの結婚生活~私と彼の6年間の軌跡 偽装結婚の男性は私の初恋の人でした   <スピンオフ> 第2章 京極正人 17

    「……」(そ、そんな……この人は本気で私のことを……?)飯塚は怖くて怖くてたまらなかった。隣に立つ勇も怖かったし、この後自分がどんな恐ろしい目に遭わされるかも分らないのだ。いつしか飯塚の足は恐怖でガクガク震えていた。すると勇は再び飯塚の肩に腕を回してきた。「何? もしかして震えちゃってるの? ハハハ……やっぱり君は可愛いね~。大丈夫、乱暴なことは何もしないよ。たっぷり可愛がってあげるからさぁ……」そして飯塚の耳元に熱い息を吹きかけてきた。(い……いや……! 怖い……誰か……京極さん……っ!)飯塚の目に涙が浮かび、心の中で京極に助けを求めていた。その時――「おい、お前! そこで何をしている!? 彼女を離せ!」背後で鋭い声が上がり、飯塚と勇は同時に振り返った。するとそこに立っていたのは京極だったのだ。(う……嘘! な、何で京極さんがここに……? どうして私の居場所が分ったの?)「あ~? 何だ? 貴様は……」これからと言う処で飛んだ邪魔が入った勇はイライラした口調で京極を睨み付けた。「俺か? 俺は彼女の恋人だ」京極は顔色一つ変えない。(恋人!?)飯塚はその言葉に驚いた。まさかこんな状況とはいえ、京極の口から恋人という台詞が飛び出してくるとは思ってもいなかった。「はあ~恋人だって? ムショ帰りの女とお前付き合ってるのかよ!?(ムショ帰り……)その一言は飯塚の心を傷つけるには十分すぎる言葉だった。この男は飯塚を刑務所帰りの女だから何をしても構わないだろと言う気持ちで、ここまで連れてきたのだった。「それがどうした? だか彼女は反省し、刑期を全うしたんだ。むしろ俺にはお前の方が余程刑務所がお似合いな奴だと思っているけどな?」「な、何だと!? 貴様……!」勇はギリギリと歯ぎしりしながら京極を視線だけで射殺しそうな目で睨み付けているが、京極はそれを涼しい瞳で受け止めている。(そんな……あれが京極さんなの? いつもとはまるで別人みたい……それともあれこそが彼の本当の姿だったの……?)「とにかく今すぐ彼女を離さないと、この画像を動画サイトに流すぞ?」京極は自分のスマホを取り出し、映像を再生した。『何? もしかして震えちゃってるの? ハハハ……やっぱり君は可愛いね~……大丈夫、乱暴なことは何もしないよ。たっぷり可愛がってあげるからさぁ…

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status